減災政策研究室(永松ゼミ)のミッション
巨大災害リスクに対して人間の尊厳ある生を守るための政策(減災政策)を探求し、持続可能な社会の構築に寄与すること。
減災政策研究室の目標は、災害被害の軽減ではありません。災害リスクに直面しながらも、自然に対しての畏敬の念を持ちながら、人間が尊厳と誇りを持って生活していける世の中を実現することです。災害の被害を減らすことは、その手段の一つではあっても、絶対的な目標ではありません。
人類は太古から自然の脅威におびえつつも、そのリスクを積極的に受け入れて生活してきました。例えば津波や高潮のリスクがあっても、漁師は海岸近くでの生活を好みます。それは良い魚を効率的に獲るために必要なことです。こうしたリスクをゼロにしようとすれば、極端な話、漁業を辞めるのが賢明です。しかし、我々はその反面で、海からの恵みを得ることはできなくなってしまいます。そのような解決は誰も望まないでしょう。
そこで、防潮堤のような人工物によって津波の被害を食い止める、いわゆる「防災」の考え方が生まれてきました。しかし、そのような方法に限界があることはもともと自明でした。自然の外力の大きさに比べれば、こうした防災対策からは深刻な技術的制約や財政的制約が拭えないからです。もちろん、技術進歩が進み、世の中のすべての資源を防災対策に投入することができれば、自然の脅威が克服できるかもしれませんが、そのためは、教育や福祉、環境など他の多くの価値を犠牲にしなければならないでしょう。
減災政策研究室では、「人間の尊厳ある生」を中心的概念に据えて、巨大災害リスクとうまく折り合いながら人類社会が持続的に発展する政策について研究します。具体的には次の二つのアプローチを取ります。
一つは、予防面からのアプローチです。今日の災害はますます低頻度化するとともに、いったん発生すれば激甚な被害をもたらします。このようなリスクを軽減するためには、長期的な視点から都市のあり方や我々の社会経済システムを見直さなければなりません。防災対策が我々の生活の質とトレードオフになるのではなく、都市の持続可能性と我々の生活の質を向上させるためにはどのような戦略があるのか、そうした方向へ社会を誘導するためにはどういった政策手段を用いるべきかを研究します。
もう一つは、対応・復興面からのアプローチです。災害による被害がゼロにならない以上、そうした被害から我々の社会や生活をいかに速やかに立て直すかは非常に重要なテーマなのですが、これまで十分に研究されてきたとは言えません。特に経済復興、雇用復興の問題に焦点を当てながら、災害に対してしなやかに機能を回復できる「レジリエント」な社会構築に向けての政策を研究します。
学部生の教育ポリシー
減災政策の探求を通じ、社会に対する冷静な分析力と暖かい心を養い、減災分野に留まらず現代社会の課題解決に向けてリーダーシップを発揮できる人材を育成する。
専門演習で永松研究室に配属される学部生(永松ゼミ)は、基本的に永松研究室の問題関心に沿って調査研究活動を行います。ゼミ生は研究室を構成する重要なメンバーです。
減災政策研究室に所属する学部生諸君は、公共政策ないし防災や減災に関する知識は一定程度増えるとしても、特別な専門性を研ぎ澄ますことが期待されているわけではありません。むしろ、どんな社会でも必要とされる基礎的な能力を高度なレベルに引き上げることを期待します。具体的には、物事をとことんまで考え尽くすこと、確かな情報を入手し、根拠にもとづくロジックを構成できること、それらを筋道たてて説明すること、他者の意見を聞き深く理解できること、正確かつわかりやすい文章を書くことができる、などです。
但し、いかにこうした能力に優れていたとしても、十分な人格が伴わなければ世の中で信頼される人材とはなり得ません。冷静な分析力とは他に、人間に対する愛や正義・公正・倫理を重んじる暖かい心も必要です。
減災政策研究室が主なフィールドとする災害や復興の現場では、様々な社会の問題が露呈されていることを目の当たりにすることができるでしょう。現場に立って、亡くなった方々の命の重みを感じながら、生き残った人々の生活をどう立て直すか、また次の災害に向けてどう備えるかという問題について真剣に向き合ってほしいと思います。科学的なロジックだけではなく、人間的な優しさも両立する解を導く方策とは何か。決して簡単ではありませんが、そこに苦悩しながら、実現可能な解決策を見いだし、世の中をリードできる人材を減災政策研究室では育成したいと思います。